『友達』

「この妖精ナシ!オマエなんてどっか行っちまえ!!」
「何で妖精がいないの?
 アナタって……何か、ヘン」
「同じコキリ族なら、違うところがあるのっておかしいじゃないか?」

『君は――』

――オレは、コキリ族なのか?


『ともだち』


その金髪蒼眼の少年は、今日も俯きながら森を駆け抜けた。
いつもと変わらぬ森のコキリ族たち――そして、自分。
毎日毎日似たような日々を過ごしても、馴染むことなど出来る筈もなかった。

少年の名はリンク。
小さな子供の姿に金髪、そして森の新緑の色をしたコキリの服。
他のコキリ族たちと、姿は何ら変わりがない。
それでも彼が異端として扱われるのは、たった1つの、そして最も重大な違いを持っているためだった。

――妖精が、いないこと。

コキリ族たちは通常、デクの樹に生み出される際にパートナーとなる妖精を持つ。
しかし数年前デクの樹から森の集落に送り出され、コキリ族の一員として暮らし始めたリンクに何故かパートナーがいなかった。

「くそ……ミドのヤツ、毎度毎度オレのことを……」
誰もいない迷いの森の奥まで走り抜き、ようやく足を止めたリンクは切り株に腰かけた。
1人になったところでホッと息をつき、応える者の無い小さな言葉を呟く。
そのあり方がどれほど空しいことか――わかってはいても、リンクが独り言を止められるはずもなかった。

「妖精がいないからって、オレが悪いことでもしたのかよ……
 みんなと違うってことがそんなに悪いことか?」

――毎日のように思考を巡らせても、答えが出ることなどない問いだった。
何故自分は妖精を持っていないのか。
何故妖精がいないだけで、ミドに毛嫌いされなければならないのか。
何故森の『仲間』たちは、自分を異端として扱うのか。
考えても答えは出ず、父親のような存在であるデクの樹に聞いてみても明確な答えは得られなかった。

そして、その堂々巡りの後に浮かぶ考え。
それはとても恐ろしい――悲しい『答え』だった。

――オレは、コキリ族じゃないのかもしれない。

そんな考えが頭を過る度に、リンクは強く頭を振る。

「そんなこと……あってたまるもんか」

いつもと同じ答えの無い問いに頭を回転させているうちに、日が暮れてしまったらしい。
リンクが一人だけポツリと座り込んでいた迷いの森は、いつの間にか暗くなっていた。

「……そろそろ、帰ろう」
よっこらせとばかりに重い腰を上げ、迷いの森の出口に向かって歩き出す。

他のコキリ族たちは気味悪がって近づかない迷いの森。
文字通り入り込んだ者を迷わせ、呑み込んでしまうその森は、入ったら二度と出ることなど出来ない恐ろしい場所だと聞かされていた。
――しかし、コキリの森に住む者の中では唯一、リンクだけが平気で出入りしている。
他のコキリ族たちが入ってこないために、迷いの森の中では1人になれるのだ。
ミドをはじめとするコキリ族たちを避けるために出入りしていたリンクは、いつの間にかこの恐ろしいと言われる迷いの森の構造をすっかり熟知してしまっていた。

そうして迷うことなくコキリの森に戻ってきたリンクは、集落に足を踏み入れた途端ハッとして手近な木の陰に身を隠した。
聞こえてくる――2人のコキリ族の会話。
その2人がミドともう一人――コキリ族の中では唯一仲良く接してくれるサリアの声だと気付き、リンクは気まずい思いで顔をしかめた。

「もう!ミドったら、またリンクを苛めたの!?
 アナタのせいで、リンクったら迷いの森に入り浸りなのよ!
 リンクが戻ってこられなくなったらどうするのよ!!」
「別にへーきだろ!アイツ、いっつも森の中にいるんだし。
 それに……あ、アイツなんていない方がセイセイするぜ!」

「ミドのヤツ、オレが集落にいなくてもあんなこと言ってるのかよ……」
苦々しく呟き、両手の拳をギュッと握る。
――自分はミドに心無い言葉をあびせられる度に迷いの森へ走って行った。
ミドに『邪魔だ』と言われ、そして他のコキリ族に気味悪がられ、そんなことがあればすぐに皆の前から姿を消していた。
――それでも、足りないというのか。

今すぐ家に走りこもうにも、そうすれば2人の視界に入ってしまうことになる。
2人に――特にサリアには、盗み聞きしたなんて思われたくなかった。
迷いの森に戻るか、それとも――

迷って首を巡らせたリンクの目に、その時飛び込んで来た物。
――それは、コキリの森の『出口』だった。
コキリ族たちは、『森の外に出るとたちどころに死んでしまう』とデクの樹に言い聞かされている。
皆そのデクの樹の言葉を信じ、森の外になど出ようともしなかった。
しかし――

「皆と違うオレなら、外に出ても平気かも知れない」
リンクはサリアたちが自分の存在に気付いていないことを確認すると、わき目も振らず森の出口に向かって走り出した。

トントン……という小気味良い乾いた足音と共に、リンクはどんどん出口に近づいていく。
出口にかかる吊り橋を中ほどまで渡り終えたリンクは、そこで不意に立ち止った。
あと数歩――本当に後数歩足らずで、この森を出ることになる。
そうすればリンクは、森の外に待っている物とは何なのか身を持って体験することになるのだ。
そう考えると、少し恐ろしくなった。
――デクの樹サマの話が本当なら、あと数歩を踏み出せば自分は死んでしまうかもしれない――

そして、どれ程の間その場に立ちつくしていたのだろうか。
リンクは身動きもせずに『出口』を睨みつけたまま――
「リンク!!」
自分を呼ぶ声に、リンクはハッと振り返った。
気付かないうちに、サリアにここにいるところを見つけられてしまったらしい。
全速力でリンクに走り寄り、立ち止まるなり目を吊り上げてリンクを睨みつける。
「リンク!?まさか森の外に出てみようなんて考えてたんじゃないわよね!?」
「あ、いや……オレは……」
リンクの前では滅多に見せないサリアの怒り顔に、思わず口ごもってしまった。
そんなリンクに、サリアは怒ったような口調のまま捲し立てる。
「リンク、デクの樹サマが言ってたでしょ!
 私たちコキリ族は、森の外に出たら死んじゃうって!
「別にオレ、外に出ようとなんか……」
「してたんでしょ!?」
サリアに詰め寄られ、否定しようにもできないリンク。
その剣幕に何も言い返さずにいるまま、とうとう頷いてしまった。
「もう!なんでそんなアブナイことしようとするの!?
 リンクがいなくなっちゃったら、ワタシ凄く悲しいのに……」 
途端にシュンとなってしまうサリアに、オロオロと困惑するリンク。
「ゴ、ゴメンサリア!
 オレ、もう外になんか行こうとしないから……」
「約束だヨ!?」

即座に頷くリンクに、サリアはようやく笑顔を見せる。
そして――次の瞬間、リンクが想像すらすることのない言葉を放ったのだった。
「ねぇ、ワタシも迷いの森、連れてって?」
「……はぁ!?」
頓狂な声を上げる。
コキリ族の間では恐ろしい場所として忌み嫌われ、これまでリンク以外は誰1人として近づこうとすらしなかったその場所。
いくらリンクにとっては心地よいその場所でも、どうすればサリアが行きたいなどと言いだすことを想像できただろうか。

「あのなぁ、迷いの森が怖い場所だってのは知ってるだろ?
 デクナッツとかもたくさんいるし……」
「でもリンクはいっつも行ってるじゃない」
リンクの言葉に、サリアはいとも簡潔に切り返す。
サリアはグッと詰まるリンクの手を引っ張り、迷いの森の入り口に引っ張り始めた。
「おい、サリア!?」
「ね、案内して?」
結局サリアに引かれるままに走りだし、リンクは再び迷いの森に足を踏み入れることになった。

「オレから離れるなよ?
 間違った道にさえ行かなければ平気だけど、迷ったら大変だから」
「うん」
先ほど通って帰ってきた道を再び辿り、リンクはサリアを導いていく。
その迷いなど一切ないようなしっかりとした足取りは、リンクがこの森を相当歩きなれていることを物語っていた。
「ねぇリンク、道しるべもないのに、どうして迷わないの?」
「……いっつも来てたら、自然に覚えたんだ」


そうしてどんどん歩き、リンクとサリアは森の最奥――崩れかけた神殿が口を向ける、どことなく神聖な空気が漂うその場所にたどりついた。
片隅にポツリと存在する切り株に2人で腰を下ろし、一息つく。
「森の奥にこんな場所があるなんて、知らなかった……」
「いい場所だろ?
 オレが森の中で一番気に入ってる場所さ」
既に夜を迎えた森は闇に沈みかけている。
しかし辺りに飛ぶ妖精玉の光が2人を優しく包み込み、あたりが真っ暗になるということはなかった。
そんな幻想的な光景をしばらく見つめて――
「ねぇ、リンク。
 また、ワタシも一緒に来ていい?」
「え?」
突然のサリアの言葉に、リンクは咄嗟に聞き返してしまう。
――しかし、断る理由などある筈もなかった。
いや――むしろ、その言葉を待っていたのかもしれない。
「……ああ、また一緒に来よう」
「よかった!
 ねぇ、リンク……サリアは、森の皆がなんて言おうとリンクの友達だからネ!」
「……うん!」
嬉しそうに笑いあった2人は静かに森の光景に視線を戻し、幻想的な妖精玉達の舞いに見入る。
これからは「友達同士」で共有していくだろう、その光景を――

――独りじゃない。
その光に目を輝かせながら、リンクは穏やかな気持ちで微笑んでいた。
 

鏡水さまから相互記念に頂きました小説です!

よしえリクエストのリンクとサリアの思ひ出・・・.これ任天堂に読ませたい.ゴッド宮本に読ませたい.

これゲームとめっっさリンクしてるんですよ!これすごいっすよ!

鏡水さまありがとうございました!

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